チェシャねこーねこー、と叫び続ける。
馬鹿みたいに大きな声。
猫を呼ぶとき以外、こんな大声は出さないだろう。
猫を待つことに意味なんてない。
あの低い声。
やわらかな灰色のローブ。
待つ必要もないのだろう。
あの人の世界は、狂おしいほど私を中心に廻っているのだから。
「なんだい、アリス」
聞きたかった声。穏やかなチェシャ猫の姿。
何故、こんなにも落ち着くのだろう。
「なんでもないよ。」
「そう?」
猫は首をかしげる。これは猫の癖なのかしら。
「僕らのアリス」
「なあに?」
猫は躊躇うように口を開く。
猫からの呼びかけ。なんだか嬉しい。
「アリスは僕らが好きかい?」
答えるべき言葉。「みんな大好きよ。」
でもそれに反発する感情。
「誰かさんがいればそれでいいのかもね」
私は猫にどう答えたらいいのか分からない。
「猫は私のこと、好き?」
「もちろんだよ。シロウサギもビルも女王も、アリスが大好きだよ」
それは前にみんなも言ってくれた。
でも、そうじゃなくってね。
言いたくないけど、こう言っておこう。
「私もみんなが大好きよ。もちろん、チェシャ猫のこともね。」
猫はぐるぐる喉を鳴らす。
私は猫の頭を撫でている。
「呑気ねぇ、チェシャ猫」
私はこれでも頑張ったほうなのよ。