「え、寝てる?」

きみは安らかな顔をして眠っている。陽の当たる窓辺の暖かそうな色の中で眠っている。抱きしめているのは干し終わった洗濯物だろう。きみは幸せそうな顔をして眠っている。すこし色素がうすい髪に差した光が、その色をなおさらうすめてきらきら光らせる。

「起こしちゃおうかな」

僕はスーツ姿のまま、きみの横に寝そべる。太陽に暖められたフローリングの温度がとても心地よい。このままきみを起こさずに、僕も眠ってしまうのもいいな、と思った。でも、まどろみながら眺めた、無防備であどけないきみの寝顔が、いつもなら僕の心の深みに沈んでいるはずの愛情と情欲の入り混じったような感情を、礼儀正しくかき乱した。
すこし髪に触れる。指で梳きながら頬に触れる。かすかな吐息を確かめようと手をかざす。とても暖かい。もう一度頬に触れる。身体を起こしてきみの顔を真正面から見つめる。指先で君のくちびるに触れようとしたその時、僕は動きを止めた。
きみが目を覚ます気がした。そして、目を見開いたきみの瞳に恐怖が宿る気がした。僕が今までに犯してきた罪が身体から吹き出して、きみを穢していくような気がした。だけど君は目を覚まさなかった。呼吸はいつまでも規則正しいままだった。やさしい昼の日なたの中で、罪の意識は蜃気楼のように消えていった。
太陽がいくらか傾いて、白い壁を淡い朱色に染めていく。ゆっくりと、思考が動き出す。きみの身体を足の間に収め、手をきみの顔の横につく。きみが目を覚ましたって、構わない。



僕に口づけられたきみは驚いたように目を開いた後、自分が仕掛けたいたずらにひっかかった大人を見て笑う子供のように可愛らしく、くすくすと笑った。そんなきみは天使にとても似ていた。きみと、きみにつられて笑い出した僕が、空気とも水ともいえない、生温い溶媒の中にとけていくような気がした。