「断罪ラブレター」 

あの時すれ違ったのは、きっと、あなただったのだと思います。あなたを見かけると、泣きたくなります。いろいろな感情が入り混じった、訳が分からない感情のせいで胸が痛くなって、泣けてきます。それは昔からです。今も変わりません。随分長く時間が経っているはずなのに、私の時間が止まってしまっているように感じたので、時間を動かすために、手紙を書くことにしました。ですが、手紙はとても一方的なものです。それも、私が書こうとしている類は、大抵、受取人のためではなく差出人のためにあるのだと思います。そういうのがお嫌いなら今すぐに捨ててしまってください。

もしも過去を変えられるのなら、あなたに出会いたくなかったと思っています。私が大好きな物語の中に、運命の恋人であり続けるために、運命の恋人であるがゆえに、出会うことをしない恋人たちがいます。私はあなたとそんなふうにいられたらよかった。求めなければ与えられはしない。与えられなければ失うこともない。本当に、あなたを失いたくなかった。でも、私はとても受け身で、そしてとても欲張りで、あなたが私に向ける感情があるならそのすべてがほしかったし、受け入れたかったのです。あなたが望むなら、始まりをつくることであったって拒絶したくなかった。だから私はあなたに、好きだといってほしくなかった。断れないから。おさななじみという永遠を保証された関係が終わってしまうから。その反面、言ってほしかった。あなたが大好きだったから。それに、わかっていたのです。終わりを恐れて、始まってもいないことまでもを恐れるのはとてもばかげたことだと。

あなたを見かけると、あの頃抱いていた感情が甦るのです。いいものも悪いものもいっしょくたに混ぜられた、なんとも言えない感情のせいで泣けてきます。でも本当のところは自分でもよくわかりません。どうしてでしょう? どうして泣けてくるんでしょう? わかりません。どうしてなんでしょうね?

この手紙があなたに届けば、なにかが変わるのでしょうか。でも、私は前に進みたいのです。私はきっと、あなたから逃げています。あなたがこわい。でも、私は前に進みたいのです。あなたのことを思い出すのを忘れる頃にあなたの夢を見る日々に疲れた。この日々になんらかの変化をください。

断言できます。今までにあなたほど好きだった人はいません。本当です。あなたは私の人生においてとても大切な人なのです。よく私は、通学路の小川であなたを待っていましたね。明日、きっと、きっと、あそこで会いましょう。そして、あなたがつけた私の名前を呼んでください。もしも、あなたにこの手紙が届いたのならば。










「愛こそすべて」 09.12.26

隣で眠るクレミーが、教会にいた、花を手向けられたマリア像よりも神々しく見えた。 僕はとっても嬉しくなって、唇に毒を塗った。はちみつみたい。リップクリームみたい。唇がひりひりする。 鏡の中の僕をぼうっと眺めていると、息をとめている自分に気がついて、 いつも通り規則正しく呼吸をしてみると、すこしだけ、鏡の中の僕が悲しそうな顔をした。

「アーモンドアレルギーの女の子が、 ピーナッツバターを塗ったパンを食べてきたボーイフレンドにキスされて死んでしまったんだって」
「かわいそうな話! でも、好きな人のキスで死ねるなんて、素敵ね」
「僕のキスで死ねる?」
「え?」

乱暴に引き寄せた肩。閉じた唇をわるように舌。 いつになく卑猥に。もっと卑猥に。水の音。やわらかい舌の感触。ああ、甘やか。 呼吸が止まる。鼓動が早まる。とても苦しい。



驚いた表情の君。やっぱり、マリアの千倍、神々しい。
でも、もうすぐ僕ら死んでしまうだろう。










「蜜のように甘い」 09.10.30

最後の飴玉を舐めきったら、君に口付けてしまおう。この味が消えてしまう前に、君がこの味を知らないうちに。 日に透かした飴玉が琥珀みたいにきらきらしている。そして僕は、流れるような仕草でその琥珀を口に運ぶ。

僕の動きはまるでバレリーナのようにしなやかだと、昔誰かが言った。
僕が差し出した手をとるのには、小さくて白い君の手がふさわしいと思った。
僕の黒いくせ毛は、だらしなくも可哀想でもないと、やはり昔誰かが言った。
僕が指を絡めるのには、僕とは対照的な、茶色くてまっすぐな君の髪がふさわしいと思った。

だから僕は君に恋をした。 君はこの学校の高嶺の花で、男女が不可侵条約を認め合うほどだったけれど、 僕は君を手に入れることについて何の恐怖もなかった。 僕の予想通り、君の手も髪もとても僕に似合ったし、 君の甘い香りは僕の身体に染み付いて、練り香水のように僕を彩ってくれた。 僕はそんな君を嘘偽りなく愛しているし、嘘偽りなく、可愛らしくてたまらない。 でも僕はやっぱり、僕が君にキスする瞬間を思い描いて、そんなの絵画みたいに綺麗に決まってる、と思った。

あいしてる。あいしてるよ、あいしてる。僕は真顔で、でもとっても幸せな気分で、りんご味の飴玉を舌で転がしながら振り返る。