部室からドラムの音がする。(もう本宮来てんだ!)
それだけで夏の校舎の雰囲気は華やぐ。
死にかけながらチャリを漕いで上がる坂道で見た空は、俺の心のように晴れやかだ。
愛しているよ愛してる。
俺はこの世界を愛してる。





SEVENTEEN's POPCANDY






俺たちの青春はあの日なたで焼け焦げていて、友達みんなでそこでころころと寝そべって縺れ合ってじゃれている。そんな感覚。遅刻ギリギリで登校。明日の準備を確認しないで下校。忘れものだらけの毎日。教科書でごちゃごちゃになっている机の中みたいに、性のメタファーで破裂寸前の教室。うんざりするほど、俺たちは健全だ。

ギターの音でいっぱいになっている部室。耳がガンガンする。きっと俺たちはどんどんここから離れられなくなっていくんだ。どんなに下手なギターでも、どんなに不協和音でも。愛された小鳥が、いつしか鳥籠から出ることを拒むようになるみたいに。


「なあなあ峰、これ半音上げ? チューニング変えなきゃいけないの?」
「カポつければいんじゃね? あー。原、お前ギターのカポ持ってなかったっけ? 貸してくんない?」
「持ってるけど貸さない」
「なんで!!」
「あれ……祐子が買ってくれたんだ………」
「ああ、元カノな」
「いつ別れたんだっけ?」
「1年保たなかったよな」
「いい加減忘れろよなー」
「女々しい男、モテねぇぞ」
「祐子ちゃんて今、市工の人と付き合ってんでしょ?」
「ああ、ぜってーヤラれてんな。市工だもん」
「原はヤラせてもらえなかったんだよな!」
「だってこいつ、チューすら断られてたもんな!」
「だまれ万年非リア…! お前には貸さない…!」
「死ね!」
「Dの3小節目からベースとドラムでやるぞー」
「それどこ?」
「『風に靡く白いシャツが綺麗』ってとこ」
「ドラムカウントしてー」
「テンポ原曲くらいでいくぞー」
「あいよー」


峰は彼氏持ちの幼馴染が好き。遠山は中学から一途に想ってる子がいるけど現実逃避しまくってAKBに夢中。本宮は謎。俺はまだ祐子が好き。
俺たちの愛しのあの子は今頃、知らない誰かと腰を振ってるんだ。よくあるAVみたいに、感じてもいないのに喘ぎまくって相手の男を悦ばせて、まんまと騙された男は欲情して、ふたりはぐじゃぐじゃの肉の塊みたいになって混ざり合っていくんだ。
心を掻き乱すほどの大音量の中でだけ虚しさを忘れられる。
どんどん音を吐き出して空っぽになる。



「合ったかな?」
「どう聴いたって合いまくりだろ! どや!」
「じゃあ、全員でやろー」
「本宮、トチんなよー」
「峰ちゃんと歌えーってかチュッパチャップス食うのもうやめろよ! 完全歌えねぇだろ!!」
「へいへいすいませんー」
「いくぞー!」



真夏の午後の殺人的に蒸し暑い部室の中で、どんどん狭まる世界は俺たちにだけやさしい。
俺はこの世界を愛している。