パステルカラーだけでつづられた物語の中にいるような、何もかもがゆるんでゆるんであまい蜜になってしまうような、そんな感じ。抱きしめたちいさな身体から、日なたの匂いがする。溶けだすように広がっていく、自分よりもすこしあたたかい体温に目をつぶる。嫌だと言ってもがいているけど本気じゃないのは分かっている。ふとした瞬間絡む視線の先には、瞳孔を広げて目を黒がちにしながら、おれの瞳の真ん中をまっすぐにまっすぐに見つめるあのこがいるから。

あのこを抱きしめていると、車のクラクションや、飛行機のエンジン音、足音、話し声、すべてが遠ざかる。まるで、この惑星にふたりきりでいるみたいだ。おれがこんなところまで攫ってきてしまったのだ。四畳半のせまい部屋が、宇宙よりも大きく広がる。
「おいっ つぶすなよ、」
おれと壁の間にはさまれて、くるしそうに目を伏せる。触れあった場所から、すこし早まった鼓動が伝わってくる。とくとくとくとく。繰り返し。胸にちがう生き物を飼っているんだ。齧ればきっと、甘い味がする。
「ねぇ、こっち向いてよ」
「嫌だっ」
艶やかな黒髪は、余計な色をよせつけない。かきわけてみると、いつもなら病的なほど白い首筋が、頬が、耳が、胸元が、ほんのりあかく染まっていることが分かった。ぼんやり見つめていたら、べちん、叩かれて、眼鏡が飛んでいってしまった。
「んー、照れてるんでしょ。可愛いね」
「ばっか野郎、」
それをきっかけに、たくさんの言葉でおれを罵ったあと、おれの腕から逃げようともがく。でも、おれの腕がはずれないぎりぎりの力加減を感じる。そんなの、求めているのと一緒だよ。そのいじらしさに、欲情してしまうよ。そんなことを思っている間もあのこは、ぎゅっと目をつぶりながら、おれの手に触れている。
「はやく大人になってよ」
「もう大人だし!」
「12歳なのにぃ〜?」
「はたち過ぎて子供じみたふざけ方しやがって!」
「何言ってんの。おれは大人だよ。君の知らないことちゃんと知ってる。たとえば、」
「言うな!!!」

あのこに触れたい。その喉元に噛みついて噛みついて、むさぼるような絡みつき方をして、疲れ果てて意識を失うような、そんな眠り方をしたい。

ねぇ、ねぇ、こっちを向いて。小さい頃あこがれてたあのリボルバーみたいに、おれにキスして。


「ねぇ立夏、好きだよ」
「………ばか草灯」
「うわー顔真っ赤!」










「LOVELESS」のおふたりさんと名前が一緒なのは、偶然です!!! (おい