私の下僕は銀時計をかざしておもしろそうに笑っている。彼の笑顔は時計に隠れては現れるのを繰り返す。私は私の首を抱えながらそれをながめる。この首に口づければよかっただけだったのに。この首を黒くやわらかなローヴに隠してしまえばよかっただけだったのに。高く掲げた首の唇にゆっくりとため息を吐く。切れた断面から滴る血が手を濡らす。ローヴに染み込む。恍惚に目を閉じそうになる。それでいい。あとは目を閉じるだけでいい。つめたい唇をあたためるように唇を重ねるだけでいい。ただそれだけなのに、私の下僕が赦してくれない。規則正しく視線を遮る時計の向こうで、私の嘘を見透かしている。彼の手が伸びてきて私から首をもぎ取る。黒髪の間からのぞく瞳が私に近づく。胸からこみ上げてきた血は蛇のように首から胸を伝ってゆく。私の首が彼の手からすべりおちる鈍い音がする。見せつけるように揺れていた時計は視界から消えて、少し口を開けた彼がゆっくりと私の首筋を目指す。私の視線は彼を追いかけ続ける。湿った音がする。脳髄が痺れる。そして、彼が視界から消えた少しの間に、私と彼の視線をはばみ続けていた時計をわずらわしく思っていた自分に、気づく。

彼の顔が近づく。彼が悩ましげに目を伏せる。私は彼の唇にため息を吐く。私の顔に添えた手の指が私の唇をなぞる。目を閉じてしまいそうになる。閉じてはいけない。白いコートに白いシャツに白いベストの彼と、黒いローヴに白いシャツに黒いベストの私。あなたに白は似合うようで似合わない。彼をローヴで包む。目を閉じた彼が首を傾げる。目を閉じては、いけない。


地獄に堕ちてしまう。