薄暗い教室には、私と彼のほかに誰もいなかった。私たちは他愛もない、面白いだけの会話をする。私は盛大に笑う。彼も私につられて笑う。私は笑顔になった彼を見て嬉しくなってまた笑う。とても楽しい。
彼が私を好きらしい、なんてことを風の噂で聞いた。彼と過ごす時間はとても楽しくて、だけどあっという間で、もっともっと一緒にいたいといつも思っていたので、それを聞いたとき私はとても嬉しかった。きっと私は、彼のことが好きなのだと思う。
彼の話が面白すぎて、笑いが止まらなくなった。おなかを抱えるようにしてうずくまって笑った。そうしていたら、彼が私のおなかをちょんちょんつついてきたので驚いた。
「あばらが浮き出てるんだね。」だなんて、真面目な顔をして言う。
なんだ、そんなことが気になったのか。彼が服の上からゆっくりと肋骨をなぞっていく。私はされるがままだ。なんだか面白くなってきた私はおなかを引っ込めて、
「こうするともっと浮き出るんだよ」と言った。
「ほんとだ。」
彼の手は私の身体をさっきよりも丁寧に撫でる。手が温かくて、眠ることよりも心地よく感じた。

いつの間にか私はつめたい床に寝転んでいて、彼は片手をついて私の顔を覗き込んでいた。恥ずかしくなって目を逸らす。でも彼は優しく私の肋骨を撫で続けた。ゆるやかな調子で自分の体温が上がっていくのが分かる。そうしていたら、頭がぼんやりして、何も考えられなくなった。眠るわけでもないのに、目をつぶる。肋骨を撫でる手に力が入るのを感じる。彼の息遣いが私の耳に届く。目をつぶっているのに神経が研ぎ澄まされていく。どんどん、時の経過が曖昧になっていく。





一瞬のようにも感じたし、永遠のようにも感じた。ため息に声が混じりそうになる直前、彼が突然手を止めた。なぜかそれがもどかしく感じた。私の中の何かが燻ぶっているがわかる。私は、この感情の名前を知らなかった。足の間にたまった体液の意味も知らなかった。
彼の真顔が私を見下ろしている。その頬を両手ではさんでべちべちと叩く。面白い顔を笑い飛ばした後、短いキスをした。彼の驚いた表情は笑える。幸せな光景すぎて笑える。私たちは顔を寄せ合ってくすくす笑い出す。