ねぇ、しってた? ねぇ、しってた? わたしとっても目が悪いの。


「なんで冴木くんのことフったの?!」
彼とってもかっこいいのに! もったいない! とまみちゃんはわたしを責める。
「えー、わたし彼氏ほしくないしぃ、男子にキョーミないしぃ、それに、顔がちょっといいからっていい気になってるやつ、嫌いなんだよね、」
「あんたも美人だからって調子のってんでしょ!」
「まぁわたし、そんなにきれい?」
「ばっきゃろう!」
「あはっ」

夕日のなかで風がふくたび、まみちゃんの日焼け止めのにおいが醗酵してわたしに白くこびりつく。まみちゃんは自分が地黒なことを気にしているけど、そんなまみちゃんは黒猫のようにしなやかそうで、とってもきれいだとおもっていた。

「あんたってほんと、男嫌いよね」
「だって、女の子のほうがかわゆいしふわふわだしいいにおいがしますもん」
「きもい!」 (まみちゃんわたしの腹にパンチ☆)
「ぐはっ!!!」
かんかーん、まみのKO勝ちだ!

「それにさ、」
「ん?」

彼、わたしのことずっと見てたんだって。ずっと・ずっと・ここ1年ほど。でも目が悪いわたし、それに気がつかなかった。気がつけなかった。そしたらこわくなった。わたしはきっと、いろいろなことに気づけてなくて、いろいろなことをまだ気づかれていないっておもいこんでるんじゃないかって。

「あ、そ」
「なにその淡白さ! 深刻な話なんですけど!」
「気づくの、遅くね?」
「なぁぁっ! わたしのせいでございますか?!」
「おまえ、あほやろ」
「関西弁であたたかみだそうったってそうはいかないぞ! わたしはすべてお見通しだ!」
「ものすごく、あほやろ」
「目がつめたいんじゃあ!」

わたしはまみちゃんに目潰しを仕掛けたが華麗によけられ、華麗にでこピンされた。
わたしはやっぱりおもう。まみちゃんはきれい。涙ぐんでるわたしを優雅に嘲笑う。おでこにあてた指の間からまみちゃんを盗み見る。

「なに、その目は?」
「へ?」
「そんな目、しないの」

ああ、やっぱりばれてる。どうしよう、ばれてる。
慌てふためいたってもう、遅い。



気づいていなかったなんて、まだ気づかれていないとおもいこんでいるなんて、嘘。ぜんぶ嘘。わたしは、分かっていた。なにもかもに気づいていないふりをしていただけ。
目が悪いのにかこつけてただけ。

「まみちゃん、わたしね、」
「ん?」

わたしはまみちゃんからかおりたつこのにおいを、未来永劫忘れないだろう。