「今何してるの?」

液晶に映る小さな文字。僕の支配下にある言葉たちは、無邪気に僕の胸を駆けまわる。 返信しようと思った。無視しちゃいけないと思った。でも、僕は何もしていなかった。何かをする気がなかった。 眼をつぶると喉がきゅ、と鳴った。どうしようもない虚空を感じて、それから逃げて、僕は返信しなかった。


「今何してるの?」

猫のように自分勝手な君と僕。嫌いじゃないのに好きじゃない、近寄りたいけど触れたくない、ナイフみたいに尖った矛盾の中での背徳。 猛毒の諸刃の剣。くり返しふりかざしているうちに死んでしまいそうなんだ、もう。何から逃げたいのかも分からないんだ、もう。 でも僕は気違いとしてではなく、普通の人として扱われるので、僕は普通の人として振舞う。 でも、僕がもう気違いじゃないのなら、どうしてこんなに強く君の手を握ろうとする? ガラスの破片を腕に押し付ける?  眠れない夜は記憶の中の君の姿が脳裏から離れない?  僕は僕で、君は君なのに、君と混ざり合ってひとつになりたいと思う?


静かになった部屋は、僕の心を溶かすように温かだった。 ねむたいような色の中で、昔大好きだった人の、低い声を聴きたいと思った。